2017.11.13 Monday | 連載・木のスプーン作り

木のスプーン作り・その2 「私が木工をはじめるまで・後半」

2015年4月、私は時松辰夫先生の工房(以下アトリエときと略)の研修生になりました。それから1年4ヶ月の間、時松先生の背中を通して様々なことを学びました。

時松先生
 写真:師匠の時松辰夫先生は、木工ろくろのスペシャリスト

工房の作業、ショップでの販売接客、掃除や料理(アトリエときでは朝昼晩の3食を当番制で作ることになっている)など、いろんな経験をさせていただきました。しかし、素人のうえに、そそっかしい性格だったので、たくさんの失敗で迷惑をかけてしまいました。木材を使いすぎて無駄にしたり、大切な木のお椀を落としてしまったりして落ち込んだこともあります。

そのほか、湯布院の町のイベントにスタッフとして参加し、住民の方達との交流もありました。時松先生をはじめ、湯布院に暮らす方たちの土地を愛し、大切にする気持ちには何度もおどろかされました。

 写真:アトリエときの倉庫で保管・乾燥中の器の材料(木地)。

木工技術だけ教えてもらうのでなく、朝から晩まで時松先生と日常生活をともにすることで、昔でいう、師匠と弟子の関係を築けたのは幸運でした。同じものを食べ、見て、聞いて、何を感じ、どう考えるのかを肌で感じることができました。一つのお椀を見て、形としてどこがよいのか、そうでないのかなど、先生のひとり言を聞くのは楽しい時間でした。日常の様々な場面を通して、目の前のことだけでなく全体を見ることの大切さをわかりなさい、と教えられたように思いました。

昨年、私は研修を終えてアトリエときを卒業しました。満を持して卒業したというよりは、もうちょっと勉強させてほしい・・・と、後ろ髪をひかれる気持ちで故郷の岡山に戻りました。戻ってすぐ工房を開設し、失敗をたくさんしました。冷や汗をかくことも、悶々と苦悩することもあります。希望にあふれ挑戦してきたつもりですが、これからのことを考えると不安もあります。

アトリエとき店舗
 写真:大分の温泉町、湯布院にあるアトリエとき(店舗)の外観。

最近気づいたことは、自分だけよければよいという考えでは続けていけないということです。アトリエときに入る前は、自分のことだけで精一杯の人間でした。生きていくためには仕事でお金を稼がなくてはなりません。

でも、自分だけ稼ぐことはできません。どんなに頑張ってよいものを作っても、木のスプーンを見て、素敵だな、とか、使ってみたいな、とか、感じてもらえるだけの気持ちのゆとりのある人がいないと私の仕事は成立しません。そのためには社会全体が生き生きと元気であってほしいと思います。そして、多くの人に素敵な木のスプーンで食事をして、もっと心豊かな毎日を過ごしてもらいたいと考えるようになっています。昨日よりもっと使いやすいスプーンを作ろうと毎日思います。

以前であれば自分と社会は、こちらとあちらで分かれていたのが、今は自分と社会が一つになって考えられるようになってきています。アトリエときに入る前とまるで自分の考えが変化し、ちょっとは人間の熟度が深まっているように感じ、少しだけ自分をほめてあげたい気持ちになります。

以前、時松先生は「木工は究極の平和産業」と言っておられました。その時はあまり深く考えていなかったのですが、社会の中での木工芸の立ち位置に気づきなさい、ということだったのかなと感じています。研修生のときだけでなく、独立してからも時松先生の仕事に向かう姿勢や考え方に気づかされ、教えられています。

木の葉皿
 写真:杉の寄せ木で木の葉をデザインした、時松先生の代表作

1年あまりの短い研修期間でしたが、3年から5年分くらいの充実した時間を過ごすことができました。時松先生に出会い、アトリエときで木工というものづくりの道の入り口に立ち、スタートできたことに感謝しています。時松先生とのエピソードは今後も折に触れてご紹介させていただきます。

次回のブログでは工房開設までのいきさつをお伝えします。

文・写真:岡本友紀子(木のスプーンゆきデザイン工房代表)



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