2017.05.05 Friday | イベントレポート

トークイベント「秋岡芳夫のDIYデザイン」レポート

去る4月22日、モノ・モノにてトークイベント「秋岡芳夫のDIYデザイン」を開催しました。テーマは、秋岡芳夫らKAKデザイングループが、1953年に出版した『アイディアを生かした家庭の工作』という書籍です。

伊藤暁さん
ゲストスピーカーの伊藤暁さん

今回のゲストスピーカーは、建築家の伊藤暁さん。2011年に目黒区美術館で開催された秋岡芳夫展で『家庭の工作』に魅了されたことをきっかけに、自ら家具の制作を行うなど、秋岡芳夫の家具を研究されている方です。

『家庭の工作』では、身の回りの日用品を、手に入りやすい木材を中心に、少ない道具で楽しく作るためのアイデアがわかりやすくまとめられています。会場には同書のページのカラーコピーや、伊藤さんの事務所で実際に作られた椅子を展示。

建築やデザイン関係の方から、昔の秋岡芳夫を知る方まで幅広い方々にお集まりいただき、さながら大人のゼミといった雰囲気で活気にあふれたイベントとなりました。

会場の様子

『家庭の工作』は60年以上前に出版された本ですが、伊藤さんは「紹介されている家具のデザインがいま見てもかっこよく、モダン」だと言います。

「ただかっこいいだけではなく、身近で買える素材で作ることができ、それでいて作りやすさや強度がきちんとあるんです」

素材の使い方や組み合わせ方、部材の形などが驚くほどうまく統合されていることに感じ入ったという伊藤さんは、建築の基礎を学ぶための研修として、事務所の新人には『家庭の工作』の家具を作らせているそうです。

さらに、伊藤さんは『家庭の工作』とイタリア人工業デザイナー、エンツォ・マーリが出版した“autoprogettazione?”(1974年出版)との類似点を指摘します。

「エンツォ・マーリはハイブランドの家具デザイナーでしたが、この“autoprogettazione?”は『家庭の工作』のように、ありふれた材料でイスやテーブルを製作するというDIY家具の指南本です。ちなみにautoprogettazione?とは、自分で家具をつくってみよう、という意味だそうです」

これらふたつの本の出版には20年ほどの隔たりがありますが、両者の共通点として当時の社会状況があるのではと伊藤さんは考えているそうです。『家庭の工作』が出版された1953年の日本は、経済成長に突き進もうとする好況の時代。一方1974年頃のイタリアは深刻な経済危機にありました。

一見正反対な経済状況ですが、どちらも平常ではない極端な状態にあった、ということは同じです。そうした時代に「誰かに作ってもらったもの」に頼る生活は、経済や社会状況に大きく左右されてしまいます。しかし「自分で作る」という発想は、自分でコントロールできる生活の範囲を手許に留めることにつながります。こうした思いで両者がDIYの本を出版したのではないかと伊藤さんは考えたそうです。

「秋岡さんの著作では『暮らし』というワードをよく見かけますが、それは秋岡さんが形に凝るのではなく、自分のデザインがどんな暮らしを作っているのか考えたからだと思います。単なる物のデザインではなく、使われる状況を想像できている証が、これらの著作なんじゃないかと思うんです」

会場には椅子も持ち込まれた

伊藤さんの事務所で作られた両者の椅子は、「作ってみたら大きさや重さが全然違った」と伊藤さんが言うように、エンツォ・マーリのものは無骨。秋岡芳夫のものは華奢、という印象を感じさせるものでした。セミナー終了後、参加者の皆さんはそれらの家具を囲みながら、楽しくデザイン談義をされていました。

セミナーの終盤、参加者の中にいた秋岡芳夫の教え子の方が登壇され、秋岡芳夫の次のような言葉を紹介してくださいました。

「自分のほしい物を自分でよく考え、自分でつくり、要すれば自分の道具をよく工夫し、心をこめてつかって見て、気に入らぬところを又よく考えて直し、納得の行くまでつくり直し、それを愛用する…それが人間の物づくりの原型!」

秋岡芳夫の「消費者ではなく愛用者になろう」という哲学の根本がこのメッセージの中にはある、そう強く思いました。

photo&text:宝樹恵(グループモノ・モノ)


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